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「ありがとうございましたー。またお越し下さいませー」    アパレル系の店特有の語尾が高音に上ずるあいさつをし、一風音(にのまえふうと)はふかぶかと頭を下げながら最後の客を見送った。 視線とブーツが重なると、ブーツからパンツの裾があふれていた。腰を屈め、裾をブーツに突っ込んだ。風音はこだわる主義だ。   「おつかれ。一(にのまえ)君」  三十路まで秒読み段階に入っている、俗に言うアラサーの店長が言った。18年も耳にしてもう慣れたと思っていたが、やはり「にのまえ」と呼ばれるとツッコミを入れたくなる。なんでやねん。『一』って書いて『にのまえ』て。だが、あながち気にいらないというわけでもない。 「それにしても当日にアレ買っていく客がいるとはね。もともと売り物ってわけじゃないんだけど」 「そうですね。……っていうか、着ぐるみにはツッコミがない!?」
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