6/18
前へ
/243ページ
次へ
「んー、どうした一(にのまえ)ー。」  暖簾を掻き分け店長が口を拭いながら現れた。新雪のように真っ白な肌、かすかに鎖骨に触れる程度の茶色の髪。白のシャツの胸元を開け、小さな十字架のネックレスがいまにも溺れそうだ。細めの黒のパンツ姿がスタイルの良さを浮き彫りにしている。目鼻立ちが整っているその口元にかすかに見えたクリームを見逃さなかった。さては自分だけ先にお土産の青山シュークリーム食べてたな。チクショー。 「こちらのお客様なんですが……」 「どうしました。おきゃ……くしゃま」  店長はソレを視認すると目が点になり、動揺が言葉にまであらわれてしまった。どうしてクマの着ぐるみなの、と店長の思考がクマ一色となる。 「店長か。これを売ってくれ」 「申し訳ありません。それは」 「どうしても要るのだ」 「イベント用のものなので、売れと申されても」 「どうしてもダメか」 「そう仰られましても」 「どうしてもか」 「ですから」 「たのむ」 「……お譲りします」 あ、折れた。
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!

401人が本棚に入れています
本棚に追加