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夜の静寂を切り裂く、四角い閃光。
シャオが突き出した手の先に、光の扉が出来上がっていた。
普通なら驚くべきその現象に、何故か今は普通で居られた。
渚の言葉に、返事は出来ない。
返事をしても、多分その声は届かない。
それほどまでに──今俺は。震えない声を出せる自信がなかった。
渚達に背を向けて、黙々と扉に近付く。その光る扉は、変化を見せずに俺を迎えた。
砂擦りの音が鳴る。
渚が一歩、こっちに踏み出した音。
扉まで後数歩という所で、俺は足を止めて、身体中に気合いを入れて、渚の方を向く。
挨拶出来ない姿は──兄ちゃんとして見せられないから。
「俺……行って来る。皆、ここを頼んだ……。それと」
光に当てられ完全に見えた渚の表情。込み上げてくる全てを飲み込み、俺は告げた。
「行ってくる、母さん」
──大丈夫じゃなかった。俺の頑張りは、渚を見た瞬間に崩れてしまったから。
シャオと一緒に光の扉に入って、その後は良く分からない。
ただ、必死に目を押さえた。
光の中で、子供達が泣く声が聞こえた。
淡い視界の中、微笑む母さんが見えた。
「まったく……。私の息子なら涙くらい我慢、しなさいよね」
そう呟く渚の目からは、大粒の雫がこぼれ落ちる。何度も、何度も。
「無茶、言うんじゃ、ねえよ」
──こうしてこの日このように、俺は魔法の世界へと飛び立った。
この別れを、別れで終わらさない為に。
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