プロローグ

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 青年は、寺の跡取りと一般の女性との間に産まれた一人息子だった。  彼は、普段から信心深くしていたわけではないが、とかく寺の息子として大事に育てられたため、他の人よりはほんの少し信仰心というものがあったように自負していた。  なんとなく、自分も父の跡を継いで僧侶になるんだろうな、と思っていたのだが、現実は違っていた。  問題があったのは、彼の父親だった。  彼は、自分の利益のためだけに、法事や仏事、祈祷などの料金を、次々と値上げしたのだ。  さらに、母から聞いた話では、寺の一番大事な秘仏をどこぞの骨董店に売り払ってしまったという。  愛想をつかした妻は、青年を連れて寺を出て、程なく離婚が成立した。  親権が母親側に行ったため、青年は寺を継ぐ必要性も無くなったのだが。  寺って、なんだ?  神職って、どんな職だ?  父親の、裏切りにも近い行為に、青年の思いは揺れていた。  神に仕える者が、この体たらくで、神は文句を言わないのだろうか?  じゃあ、神様って……なんだよ?
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