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百四十六ノ刻 顔の並ぶ町
「今なにしてんの?」
「んあ?そりゃお前、パンドラでハンサムジャックの野郎のドタマぶち抜いてやろうと」
「ヒマなんだな。出て来い、奢ってやるから」
仕方なく、服を着替えて駅前の居酒屋に向かう。
居酒屋の前で待っていた友人は礼服だった。
「なにお前?葬式だったの?」
友人はなにも答えず地下の店内に続く階段を降って行った。
適当に注文を済ませ、煙草に火を点ける。
暫し無言が続く。
間接照明で薄暗い店内に店員の声と他の酔客の騒めき、有線の誰だか判らない似たり寄ったりなアイドルだかの曲が混ざりあった雑音が響いている。
「つーか、なんか話せや。テメーがクソ寒い中呼ぶからわざわざ超忙しいのに来たんですけど」
そう言うと友人は葬式の御返しらしき紙袋から一枚の写真を取り出し、見ろと言わんばかりに差し出した。
「何だこれ?」
被写体の人物は手足をバタつかせているのか、四肢がぶれて写っている。
首から上、輪郭をなぞる様に真っ黒く写っている、影法師の顔に髪の毛を乗せた被写体。
それだけでも異様ではあるが、写真には赤、青、黄、ピンクのポスカで「ばいばい」と書かれている。
写真を友人に放る様に返却する。
「今日さ、そいつの葬式だった。なあ……?どう思う……?」
「どう思うって言われても……答えに困る」
友人はポツポツと亡くなった友達について語り始めた。
ドライブが趣味だった。
休日やその前日になると同乗者の有無に関わらず走りに出掛ける。
クリスマス直前、街中はイルミネーションで飾られ浮かれた雰囲気と年末特有の気忙しさと薄寂しい空気が混在していた。
「確か二十二日かな?アイツに誘われてドライブ行った」
特に目的は無い。
適当に車を走らせる。
横浜の市街地を抜け、神奈川の西方に向かっていた。
「なあ?ここ何処だ?」
助手席に乗っていた友人は訊ねた。
「なんか変な所に出たな、ナビの現在地と全く違う」
後続車も対向車も居ない。
人通りも皆無、それどころか電気の点いている家屋が一切無い。
商店街なのか見通せる家屋の全てにシャッターが降ろされている。
光源は白く輝く水銀灯と出鱈目に明滅を繰り返す信号機、友人達の乗る車のヘッドライトのみ。
「降りてみねえ?」
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