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百四十五ノ刻 保存食
知り合いから聞いた話。
つい最近、悪夢や妙な妄想に悩まされた。
内容は決まって同じで、毒々しいまでに赤い夕陽が射し込む自室、そこで何者かが一心不乱に黙々と作業をしている。
糸鋸と出刃包丁を使い解体した物をミキサーに掛け、酒瓶なのか醤油瓶なのか判らない瓶や空のペットボトルに詰める作業。
解体しているのは人間。
腕や脚どちらかを解体している。
骨から肉と脂を出刃包丁を使って外し、残った骨をまな板の上で糸鋸を使い数ブロックに切断してから金槌で砕く。
きちんと血抜きをしているのか解体中、肉に包丁を入れても血液が滴るようなことはない。
そして、肉と脂と砕いた骨をミキサーに掛け、ドロドロに砕かれ、撹拌された肉を瓶やペットボトルの口に漏斗を嵌めて流し込む。
「妄想とはどういった?」
「その夢の光景が日中に脳内で突然再生される感じと言った方が的を射ているかも」
仕事中等に気付くと夢で行う一連の作業をしているかの様に手を動かしている事があるという。
先日、ただの夢ではないと確信した。
その日は休日だった。
正午少し前に目覚めるとキッチンのシンクがガタガタと震えた。
収納の戸を引き開ける。
シンク内の床板がガタガタと鳴っている。
排水パイプが通る隙間に指を突っ込み、床板を外す。
床板の下を窓から射す真冬の鋭い陽光が照らし出す。
びっしりと敷き詰められた瓶とペットボトル。
瓶はそれ自体の色で中身が判別出来ないが、ペットボトルにはサーモンピンクのドロドロした液体が詰まっている。
ペットボトル内の至る所に黄ばんだ白黴のような物が付着していた。
住んで数年経つ部屋だがそんな物を持ち込んだ覚えはない。
「来年には契約の更新だから越そうかな。今はまだ沢山あるし、味も良いから」
何の事を言っているのか訊く気になれず黙っていた。
知り合いはバックからペットボトルを取り出した。
薄汚れたペットボトルの中にはオキアミの様な色をした何かが入っている。
それを一気に飲み下すと「じゃあ」と去っていった。
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