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六ノ刻 双陽
知り合いから聞いた話。
高校時代の事だった。
放課後、友達と河川敷で煙草を燻ゆらせていた。
春の足音が聞こえ始めた時期、暖かい陽気で草の匂いに包まれて心地良かった。
肌寒い風が吹く頃には空が橙に燃え、赤々とした夕日を水面が反射し無数の煌びやかな光を放ち揺らめいていた。
友達とぼんやりそんな光景を眺めていると夕日の上にもう一つ夕日が現れた。
二周り程小さいもう一つの夕日。
真っ赤に光る球体は窓の様な物が在り回転している。
底には射出口の様な物が付いている。
インスタントカメラを鞄から取り出して撮影する。
背後の草むらをガサガサと掻き分け何者かが向かって来た。
二メートル近い身長に薄汚れ所々穴が開いた服、顔は黄や茶が所々混じった染みだらけの包帯で覆われていて異常に縦に長い。
ムォォォォンン
一声上げると包帯がほどけ口元が露わになる。
唇は無く丸い口、鋭い牙が無数に乱雑に伸びている。
ソレは友達のブレザーの袖を掴んだ。
マズい。
そう思い体当たりを喰らわす。
ソレはよろけて倒れた。
鞄を拾い上げ、腰を抜かした友達を立たせ走る。
ムォォォォンン!
背後から声が迫って来る。
無我夢中で走った。
気付いた時には数キロ先の街中に居た。
友達とは会話も無く帰路に着いた。
数時間後、友達から携帯に着信。
出ると酷いノイズ。
もしもし?
…すけ……た……けて…ムォォォォンン!!
電話は切れた。
恐ろしくなりカメラを窓を開け投げ捨てた。
布団に潜り込んだが眠れなかった。
一度窓から赤い光が差し込み、あの声が聞こえた。
翌朝、カメラが落ちた辺りを見たが無かった。
友達は家庭の事情で急遽転校したと担任はホームルームで告げた。
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