一ノ刻 蟲這い

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一ノ刻 蟲這い

知り合いから聞いた話。 部屋で寝転びだらだらと過ごしている時などに背中や腕に蟲が這い回る様なむず痒い感覚を覚える事がある。 腕や背に手を遣る、特に何も無い。 ある日の事。 久し振りに友人と酒を飲み終電を逃した友人を伴い帰宅した。 部屋に入ると暖房を点け室温上げ上着も脱がず化粧も落とさず布団も敷かず雑魚寝、二人共酔いが相当回っていた。 引付でも起こしたかの様な細く長い叫び声、冷凍庫にでも突っ込まれた様な寒さ、全身をむずむずと蟲でも這う様な感覚で目覚めた。 友人は飛び起き身体中を払う仕草をすると絶叫しながら飛び出して行った。 薄暗い、まだ夜が明けきらない時間なのかと思うと途端に眠気が襲ってきた。 目覚めたのは正午前だった。 酒の抜けきらない頭でふと明け方の出来事を思い出していた。 暖房は点いたままで目覚めた時は暑くて目覚めた、上着も着たままで少し汗ばんでいる、友人は何に怯えていたのか。 思考を遮る様に鞄の中から鈍い羽音が聴こえてきた。 友人からの着信。 忘れた荷物は送料着払いで送って欲しいとの事だった。 理由を問うが口籠もる。 荷物の件は承知した、明け方は何が起こったのかと問うと暫く押し黙った。 それが原因とだけ応えて友人は電話を切った。 以来、友人とは疎遠になったが職場で身体中に何かが這い回ると喚き上半身の皮膚を包丁で削ぎ落として入院していると別の友人から聞いた。 相変わらず蟲が這う様な感覚はあるがあまり気にしない。
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