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二ノ刻 目隠し鬼
知り合いから聞いた話。
昨年の節分の事だった。
昼下がり、自宅付近を駆けている。
何かから必死に逃げている。
おぉぉにぅぃさんこぉぉちらぁぁぁ…
必死に逃げている筈なのに自らソレを招く様に叫びながら駆けている。
平素と何ら変わらない自宅周辺の景色。
差異は近所のコンビニはおろか商店街や整備工場や定食屋に歩道に全く人影が無い。
そして、自分は得体の知れないモノから必死に逃げている。
夢だと気付いているが覚めない。
自宅コーポの階段を駆け上がり勢い良くドアノブを捻る、スニーカーを脱ぎ捨て部屋へ駆け込む。部屋にさえ入れば安心だ、何故かそう信じ込んでいる。
しかし、部屋には何者かの影。
叫び声を上げ目覚めた。
枕元の目覚まし時計の文字盤はまだ四時少し前だった。
室内は冷え切っているのに全身汗塗れでパジャマが湿っている。
洗面所で着替えて顔を洗う。
鬼さん此方…
言葉が意識とは無関係に口から出る。
玄関からドタンドタンと乱暴に短い廊下のフローリングを踏み鳴らす様な音が響く。
動けない。
鏡越しに見慣れた壁を見る。
妙な顔の女がギクシャクとした動き方で背後に立つ。
目には杭の様な木が一本ずつ穿たれ、孔からは朱い滴りが落ひち顔を汚している。
口からは灰色の太い舌が胸元辺りまで飛び出している。
白い着物は所々破れ、泥や血の様な物で汚れている。
ソレはこちらに舌を伸ばし首筋や頬に磯臭い舌を這わせた。
気味悪く嗤いながら舌を這わせる。
目覚まし時計の音が響き目覚めた。
洗面所で倒れていた。
顔や首筋にはネバネバした液体が付着していた。
その日の正午前だった。
デスクの引き出しを開けると何かが飛び出した。
目に黒い塊が向かって来た次の刹那、激痛で動けなくなった。
大きな雀蜂だった。
朝から何回も開けていたし何時入り込んだかは解らないが、雀蜂は針を深々と瞳孔に突き立て毒袋や内臓を針と共に残し床に落ちた。
猛烈な痛みや悪寒と恐怖で薄れ行く意識の中、オフィスの人間が事態に慌てふためく喧騒の中あの嗤い声が聞こえた。
視力は戻らない。
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