未来商事

4/7
前へ
/118ページ
次へ
偶然にも、その会社は俺の自宅から目と鼻の先の場所にあった。 ・・・このビルの二階か・・・。 こんなに近くにこんなビルあったっけ? そんなことを思いながらもドアまで行くと、会社の名前がドアにも書いてあるのでここに間違いない。 あまり大きな会社ではなさそうだ。 中へ入るべくドアを開けた。 中に入ると、カウンターに座る、二十歳前後の女性が私を見るなり、 「課長、山本さんがお見えになりました。」 と、奥の部屋に向かって叫んだ。 この女性の行動に、俺は早速引っ掛かるものがあった。 まるで俺に前から会った事のあるかの様な反応だったからだ。 いくらリストラされる程度とはいえ、十年以上営業をしてきただけに人の動き位は分かる。 その俺が、この女性は俺のことを知っていると感じた。 すぐに奥の部屋から男性が出てきた。 五十代の、いかにも課長という感じの男性である。 先程俺に電話したのがこの人だとすぐにわかった。 「山本さん、未来商事へようこそ。」 課長はにこやかに俺に声をかけてくれた。 ・・・こんなふうに迎えてもらったのは本当に久しぶりだった。 前の会社でも、転職活動中も、そして家でも・・・。 なんだかここに来たのが初めてではなく、やっと自分の居場所へ帰ってきた、そんな気がした。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加