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「虫の息だな」
「虫の息ね」
「ああ、虫の息だ」
三者三様しみじみと呟く。
「虫の息、虫の息言うんじゃねえよ。縁起でもない」
小さい声が不満げに言う。
「だってなあ」
「ねぇ」
「ああ」
今度は顔を見合わせる。
少し困ったような、何ともいえない複雑な顔で。
「そこだけで納得してんじゃねぇよ。しかもわけわかんないし」
小さくとも元気な声だ。
その変声機を通した子供のような声に、三人とも少し安心する。
「いや、だってお前、虫じゃん」
………………。
長い沈黙の末誰かが吹き出した、それを機にあとの二人も笑い出す。
「何処でそんなレアな呪い貰ってきたの」
「いやしかし、台所の黒い奴じゃなくてよかったな」
「そうね、あれだったら瞬殺してるわね」
やんや、やんやと囃したてる仲間を恨めしそうに見上げる“虫”は、赤くて小さく背中に七つの星を持つ、掌サイズのてんとう虫だった。
てんとう虫は、この事態に密かに溜息を吐く。
「まさに、虫の息だな」
黙っていたもう一人の男の呟きに、“虫”は再び溜息を吐いた。
ー終
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