[門出]

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 僕は久しぶりに車に乗った。窓を開けて風を顔にあてる。少し冷たかったがとても気持ちがよかった。 「秀、あまり冷やすと風邪をひいてしまうわよ」 「大丈夫ですよ母さん」 「でも、まだ退院したばかりなんだから」 「はい…でも、後少しだけいいですか?」 「しょうがないわねぇ」 わがままを言ったのは何年ぶりだろうか…わからない。でも、こう言った、たわいもない会話でさえ僕には久しぶりな気がしていた。  少し車を走らせてから父がふっと時計を見て言った。 「もうこんな時間か…」 「あら…あなた何か用事があって?」 「いや…なに、そうでなくて、腹が空いたなと思ってな」 「あら、私もよ」 「何処かで食事をしてから帰らないか?」 「良いわね。秀はどう思う?」 「僕は…寄っても構わないですよ」 「それじゃ決まりだな」 そして帰り道の途中、僕達はカフェに寄った。
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