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《チュン…チュン…チチチッ》
あのまま外を見ていたら、木の上で鳥がじゃれて飛んだり跳ねたりし始めた。僕はその姿を窓枠に肘を付いて眺めていた。すると
《パタパタ》
と鳥が遠くへ飛んだ。それを目で追っていたら空が映り、思わずため息をついてそのままうなだれた…。
《コンコン…》
突然ドアをノックする音がした。
だが僕は黙ったままにした。もう一度ノックの音がする。それでも僕が黙ったままいたら
「秀君…入るわよ」
そう言って女の人が入って来た。それでも僕はわざと外を眺め続けた。
「あら、居るなら返事くらいして欲しいわ。じゃないとまた…」
と一言いって彼女は、持ってきた道具を広げ、何かの準備をし始めた。
「また?…また逃げた!とでも思ったんですか?」
軽く笑いを含み僕は言った。
「…そうよ~秀君は目を離した途端何処かに消えちゃうんだもの。毎度、毎度こまるわ~」
笑って言葉を返されたから、思わず僕も笑ってしまった。
今、僕とこんな話をしている彼女だが、[咲野ひなた]と言う僕の担当看護師、だけどこの病院の婦長でもある。見た目は若いが実は35歳とけっこういっている。
以前、不慮の事故とやらで旦那さんと25歳までの記憶の大半を無くしてしまった…と噂で聞いた事がある。
初めて僕と会った時もひなたさんはどこか暗い影を背負っていた様な気がする。
だが今はその頃に比べ、大分明るくなった気もする。
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