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会議から二日後の朝、角館城の大手門は五人の者を中心として、人だかりができていた。
その五人の中には盛安から信長との交渉役に任じられた利信が竹で編んだ鳥籠に献上するための鷹を入れて両手に持っていた。
利信の護衛を務める四人の戸沢家の中でも腕利きの男達の馬には利信が信長に謁見するための衣服や最低限の食料が積まれていた。
いくら畿内に赴くとはいえ、故郷の出羽から遠く離れた所に行くのには非常に労力のいることだ。
ましてや利信は自らの領地を所持しており、そこを離れるのは、出羽全体の動きが水面下で動き始めている今、戸沢家の最前線を担う利信としては別の者に任せて欲しい事柄であったことは明らかだ。
「本当に良いのだな?」
それを理解している盛安は利信に言葉をかける。
「今更断れますまい。されど御安心召されよ、この利信の戸沢一の弁舌を信長殿に披露してご覧にいれましょう」
「うん……頼んだぞ」
盛安が不安げな表情を隠しきれていないことに気付いた利信は身を屈めて盛安と面と向かって、
「……ところで殿に一つ頼みたいことがございます」
と言った。
「うん?申してみよ」
「実は我が大曲(おおまがり)のことですが……あれの城主は誰が務めるので?」
大曲とは利信ら前田氏が代々引き継いできた所領であり、その起源は応仁二年にまで遡る。
実に百十年近くまでこの地を所領としてきた事から、一時期とは言え、自らの後釜に据えられる人物が気になるのは仕方のないことだった。
「お主の弟の五郎を城代とした。これならば安堵できよう」
「我が一門から城代を選んで頂きまことにありがたき幸せ。されど五郎は戦下手、いざ由利勢と戦になるときは盛吉殿や盛直殿に城代を譲って頂きとうございます」
利信の申し入れに盛安は驚いた。
「しかし……良いのか?」
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