4話 老夫婦

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僕が店長に成り立ての頃… 毎日お昼の開店から来る仲の良い老夫婦がいました。 お客様なんですが、物腰も柔らかく、差し入れして頂く事もしばしば。 アルバイトの好きな常連様No.1でした。 ご注文はいつも決まって、アイスコーヒー二つ。 部屋に案内し、「いつものですね?」と聞くだけでご注文が完了していました。 二年くらいたった頃でしょうか… おじいさんだけでご来店するようになりました。 僕が訳を聞くと、おばあさんは亡くなったというお話をして下さいました。 あんなに優しく良い人でも亡くなってしまうんだと、胸が裂ける思いでした。 しかし しばらくしておじいさんは奇妙な行動に出ます。 フロントで受け付けする時に「2名で」と言うのです。 もちろんおじいさん一人です。 しかしおじいさんは隣におばあさんが居るかの様に振る舞います。 僕は察し、「かしこまりました。」と手続きをしました。 部屋に入ってもアイスコーヒー二つのご注文… おじいさんはボケてしまったと、泣き出す女性アルバイトまでいました。 それ程、好かれていた常連様でした。 この奇妙な行動が二週間くらい続いた頃でしょうか? 昼間なのに、死んだおばあさんをアルバイトが見たと言います。 そして、おじいさんが毎回手をつけずに残されるハズのアイスコーヒーが空になっていたりしました。 僕は不審に思い、薄暗い部屋を覗き込むと… おばあさんが居ました… 生きている頃と同じ姿で… うっすらと見えます。 僕は老夫婦の絆を目にしました。 涙が止まりませんでした。 おばあさんは亡くなってもおじいさんとずっと一緒だったのです。 2、3日しておじいさんもご来店されなくなりました。 おじいさんが亡くなったのか、ただ来なくなったのかはわかりません。 でもご夫婦がずっと一緒に居る事は、確かだと思いました。
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