131人が本棚に入れています
本棚に追加
僕が店長に成り立ての頃…
毎日お昼の開店から来る仲の良い老夫婦がいました。
お客様なんですが、物腰も柔らかく、差し入れして頂く事もしばしば。
アルバイトの好きな常連様No.1でした。
ご注文はいつも決まって、アイスコーヒー二つ。
部屋に案内し、「いつものですね?」と聞くだけでご注文が完了していました。
二年くらいたった頃でしょうか…
おじいさんだけでご来店するようになりました。
僕が訳を聞くと、おばあさんは亡くなったというお話をして下さいました。
あんなに優しく良い人でも亡くなってしまうんだと、胸が裂ける思いでした。
しかし
しばらくしておじいさんは奇妙な行動に出ます。
フロントで受け付けする時に「2名で」と言うのです。
もちろんおじいさん一人です。
しかしおじいさんは隣におばあさんが居るかの様に振る舞います。
僕は察し、「かしこまりました。」と手続きをしました。
部屋に入ってもアイスコーヒー二つのご注文…
おじいさんはボケてしまったと、泣き出す女性アルバイトまでいました。
それ程、好かれていた常連様でした。
この奇妙な行動が二週間くらい続いた頃でしょうか?
昼間なのに、死んだおばあさんをアルバイトが見たと言います。
そして、おじいさんが毎回手をつけずに残されるハズのアイスコーヒーが空になっていたりしました。
僕は不審に思い、薄暗い部屋を覗き込むと…
おばあさんが居ました…
生きている頃と同じ姿で…
うっすらと見えます。
僕は老夫婦の絆を目にしました。
涙が止まりませんでした。
おばあさんは亡くなってもおじいさんとずっと一緒だったのです。
2、3日しておじいさんもご来店されなくなりました。
おじいさんが亡くなったのか、ただ来なくなったのかはわかりません。
でもご夫婦がずっと一緒に居る事は、確かだと思いました。
最初のコメントを投稿しよう!