131人が本棚に入れています
本棚に追加
春先の季節でした。
学生スタッフが卒業シーズンを迎え、新たにアルバイトを募集する事にしました。
通常の流れだと、まず電話で面接を希望する旨を伝えて頂き、
面接の日時を決めるのですが…
ある女性が突然、面接したいとフロントにやって来ました。
腰まで届く黒いロングヘアーで、髪の毛はボサボサ…
まるで友人の結婚式に私服で出席したかの様な
派手なワンピース…
魔女の様に長い爪…
化粧は赤い口紅のみ…
身長は175センチくらいでガリガリの細身…
一瞬、幽霊かと思いました
一目で…あ、普通じゃないなとわかりました。
その時間はアルバイトが少なく、フロントを空けて事務所で面接する事が出来ない為
店内で1時間程、待って貰いました。
その間、彼女はフロント前のソファに座り
うつむきながらブツブツと独り言を言ってました。
僕「お待たせしました。コチラヘどうぞ」
と女性を事務所に案内し、面接を行いました。
僕「それでは履歴書を拝見させて頂きます。」
女性「…」
女性は無言で履歴書を手渡しました。
僕「×さんですね」
僕は一通り履歴書に目を通し、質問を始めました。×さんは29歳で職歴無し、通信制の高校卒業でした。
僕「当店を志望された動機はなんですか?」
×「私は母と二人暮らしで、母が病気で倒れてしまい、私が働かないとダメなんです。雇って貰えないと困るんです。」
…?
僕「今までお仕事されていない様ですが、当店で頑張って行こうという気持ちはありますか?」
×「…わかりません」
……
僕「やってみないと分からないですよね」
僕「でも頑張らないといけませんよ?」
×「…はい」
僕「まず、働くには髪の毛を少し切らないといけません。その爪もです」
×「…」
僕「カラオケ店も一応飲食ですから」
僕「やる気があるなら髪の毛と爪を切って、明日また来て下さい。」
×「わかりました。」
×さんは席を立ち、挨拶もせずに事務所を出て行きました。
…まだ、社会を知らないんだな…
この店からスタート出来れば良いんだけど…
そう思ってた自分が心底、甘かったと思い知るまで…
時間はかかりませんでした。
最初のコメントを投稿しよう!