般若のお面

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2人、顔を見合わせ首を捻った。 昼間の話しをして、麦茶を飲み、2階の寝室に戻ろうと居間の電気を小さくしたその時、紅い小さな光が目に入った。 えっっ? 雨戸と襖の閉められた居間には、外からの明かりが入る筈もない。 仁美ちゃんが慌てて、 「急ごう!」 と私の手を引いた時、私は般若のお面の目が光っているのを、はっきりと見てしまった。 「え~っ!」 バタバタと2階に上がり、布団に潜り込んで震えていると、仁美ちゃんのずうっと年上の姉、久子姉さんが般若のお面の話しをしてくれた。 案外古い般若のお面だったのだが、戦争中(大二次世界大戦)に作られたのだそうで、仁美ちゃんの叔父さんに当たる人が作った物なのだそうだ。 叔父さんに赤紙(召集令状)が来た時に作っていて、この般若のお面が、最後の作品だったらしい。 叔父さんは、戦争に反対していて、何度か捕まり、苦しい思いをしたらしく、その思いをぶつけた作品なのだそうだ。 終戦を目前にして、広島で被爆し亡くなった。という電報が来たらしい。 それ以来、夏になると、般若の目が光るのだと教えられた。
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