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俺の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえた次の瞬間、振り向く間もなく背中に衝撃が走った。
「おはよっ♪」
「あーもうあっついんだからくっつくな!」
ただでさえブレザーのせいで暑いっていうのに、くっつかれて熱がもろにこもる。
俺は暑さに耐えかねて振り払おうと体を左右に振るが、背中にくっついている悪魔もそれに負けじとしがみつく。結果、その子の体は俺の体と直角の角度で振り回される。
「わぁ~ヒロくん力持ち~!」
しかもそんな状況をきゃっきゃと喜んでいる。
「朱美、頼むから離れてくれ……暑い」
振りつかれて動くのを止めると、抱きついていた幼なじみ――久澄 朱美が俺の脇下からひょこっと顔を出した。
「いいじゃん別に~」
「だめ」
そう答えると、朱美はむぅと口を尖らせつつも俺の体から離れた。
「夏になるとヒロくんが冷たくなるよ~」
ねぇオンちゃ~ん、なんて言いながら朱美は抱きかかえているライオンのぬいぐるみに語りかけている。
「お前……そんなの持って暑くないのか……?」
どう見ても熱が籠って暑苦しそうだ。
「うん! オンちゃんとは暑くても寒くても一緒だよ?」
朱美は普段からそのぬいぐるみを肌身離さず持ち歩いている。その様子は年齢詐称と言ってもいいであろう低い身長に喋り方も相まって非常に似合っている。
「これで同い年だなんて普通わかんねぇよな……」
ぬいぐるみの上にある胸はどう見ても見た目と釣り合っていないが。
「あーヒロくん今あたしのこと子供扱いしたー!」
「その見た目で十六に見ろって方が無理だ」
少なくとも俺には中学一年生くらいにしか見えない。
「ぶ~! あたしだってちゃんと大人になってるもん!」
その言葉に朱美は吠える。
本人は威嚇しているつもりだろうが、俺にはその姿は子ライオンが吠える練習をしている程度にしか見えない。
「はいはい、もう十六だもんなー。俺よりも早く歳取るもんなー」
立派な大人だなー、なんて誰でもわかる嫌味を言いつつ、俺たちは学校へと向かった。
「あ、おねぇちゃん!」
学校に到着し靴を履き替えていると、突然朱美が廊下に向かって声をかけた。
「あ……」
視線を向けると、そこには長い黒髪の少女――――朱美の姉である久澄 凛花が大量のプリントを抱えて立っていた。
「朱美と弘人か。おはよう」
朱美と俺に気づき、凛花……さんも挨拶をする。
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