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その瞬間、俺の心臓が一瞬跳ねた。
「……って、朱美。またぬいぐるみなんか持ってきて……」
「えへへ~♪」
姉の呆れ顔とは裏腹に朱美はにっこり笑顔だ。
「まぁ、先生に怒られないのならいいんだが……」
凛花さんの様子を見る限り、きっともう何度も注意したのだろう。それでも朱美のその癖は治らないらしい。
「どうだ弘人、少しは学校に慣れたか?」
「まぁ……少しはね」
凛花さんと話すことに気恥ずかしさを感じ、俺は微妙な返答をしてしまう。
「それ、何のプリント?」
そんな気恥ずかしさが更に気恥ずかしくて、俺は他の話題を振った。
「あぁ。これは今年度の体育祭の資料だよ。今日の生徒会で使うから必要な分を刷ってきたんだ」
「そっか、もうすぐだもんね」
姉の言葉を聞いて、朱美はこれから始まる祭りを想像ているんだろう。自然と楽しそうな表情になっている。
「今年は去年の体育祭よりも面白い競技が出るかもしれないぞ?」
それは凛花さんも一緒のようで、楽しそうに話をしている。
「へぇ、今から楽しみだなぁ」
「生徒会がいい思い出にしてみせるよ」
「うん! 頑張ってね、生徒会長!」
朱美の言葉に「あぁ」と凛々しく応えると、凛花さんは生徒会室を目指して歩いていった。
「大変そうだな、生徒会の仕事」
「そうだね。でもおねえちゃんすごく楽しそう」
自ら忙しなく動いてはいるが、その表情は充実感を得ているようだった。
凛花さんは小さい頃からリーダーシップを取るのが上手だった。中学生の時は学級委員をやっていたようだし、周りからもかなり好評で憧れの的になっていた。俺もそのうちの一人だ。
頼れる先輩、みんなの姉といった存在。そんな凛花さんに、俺はいつからか憧れ以上の感情を抱くようになっていた。
「ヒロくん! 帰ろっ!」
授業が終わると、こっちが支度を終えるより早く朱美が教室の外から声をかけてきた。こっちのクラスよりも先にホームルームが終わったんだろう。
「あぁ」
机の中にしまってある教科書やノートをカバンに詰め込み、俺と朱美は教室を後にした。
「……」
下駄箱に着いたところで、俺はふとその奥にある生徒会室が気になった。
中には忙しなく動く一人の少女の姿。
(頑張ってるな、凛花さん……)
遠くから見てるしかない自分に少しやるせない気持ちになる。
(これなら、生徒会か体育祭の実行委員にでもなっておけばよかったかな……)
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