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「ヒロくん、帰らないの~?」
そんな今更どうしようもない物思いに耽っていたら、一足先に靴を履き替えていた朱美に急かされてしまった。
「あ、あぁ。今行く」
ちらっと最後に生徒会室を見ると、他の生徒が数人中に入っていくところだった。
「あ、来週誕生日だ」
帰り道、朱美がふとそんなことを言い出した。
「誰の?」
「あたしとお姉ちゃんのだよ~」
自分たちの誕生日を忘れられていたことに頬を膨らませる朱美。
「あ、そっか」
朱美と凛花さん、二人の誕生日……。
「じゃあ今年は久々に集まるか」
最近凛花さんと話す機会もなかなかないし、これを期にまた一歩近づければ……。
そう考えていたら、俺の口からは自然とそんな言葉が漏れていた。
「え?」
それがあまりに予想外だったのか、朱美は俺の提案を聞いた瞬間きょとんとした顔をする。
「最近は一緒に誕生日なんてしてなかったしな」
もう一度同じ内容のことを言うと、ようやく理解したらしく朱美は俺の提案に元気よく応えた。
「うん! 一緒にやろう!」
「んじゃ、明日あたりにでもプレゼント探しに行くかな」
まだ月初めということもあり、金の余裕は意外とあるし、いろいろと選べるものはあるだろう。
人の誕生日プレゼントを選ぶなんて何年ぶりだろうか。なんだか懐かしい気分だ。
「あたし可愛いのがいい!」
朱美のそんな言葉も懐かしく感じる。そういえば昔っからこいつの望むものは可愛いものだったっけ。
帰り道、朱美は誕生日はショートケーキがいいやらプレゼントはおっきいのがいいやら、終始楽しそうに話していた。
次の日、昼間から外に出た俺は一軒の店に入った。
「いらっしゃいませ~」
店に入ると、そこは外とは別世界。おとぎ話にでも迷い込んだかと思えるような内装の中には大量の『動かない』動物たちが俺を出迎えてくれた。
朱美の誕生日プレゼントはすでに何にするかは決めてあった。今もきっと抱きかかえているであろうぬいぐるみだ。
しかし、決して男一人が入るような店ではない雰囲気に、一瞬足が止まってしまう。
(大丈夫……何も俺が欲しいと思ってこの店に来たわけじゃないんだ)
そこは女の子の誕生日を買いに来たんだと自分に言い聞かせどうにか耐えた。
「さて、どれにするか……」
目の前にある犬のぬいぐるみを手に取る。二十センチほどの大きさで、多分ダックスがモチーフだと思う。
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