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「んー……今のと大差ないかなぁ」
可愛さはあるものの、現在朱美が毎日抱きかかえているライオンのぬいぐるみとかぶるので却下。
「ワニとかは可愛くないしなぁ」
様々な動物のぬいぐるみを手に取っては戻す。その行程を繰り返すこと十度目ほど。
「これいいかもな」
手にしたのはペンギンのヒナのぬいぐるみだった。
色合いはグレーと白という地味なものだけど、愛嬌のあるまんまるな瞳が可愛く思える。そして何より、それを抱きかかえている朱美の姿を容易に想像できた。
「よし、これに決まり」
価格も二千円ちょっととそれなりに安かった。
ぬいぐるみ屋を出ると、次は凛花さんの誕生日プレゼント探しだ。
「……何がいいんだろ」
よくよく考えると、凛花さんの好きなものなんて俺は知らなかった。
小学校から付き合いが薄くなっていったんだから当然といえば当然だ。その当時の凛花さんの好みはわかっても、今なにが好きなんてわからない。
「弱ったなぁ……」
せっかく集まるんだし、無難なものは渡したくない。かといって昔好きだったものをプレゼントするのも古い男とか思われそうでいやだ。
あれでもないこれでもないと頭を抱えながら繁華街を歩く。そのとき――――
「おい危ねぇぞ!」
誰かが大声を出した。
「え?」
その声に反応して辺りを見渡す。しかし、周りには特に変化はない。あるとすれば、自分の足元が段々と暗くなって……。
そして、俺が変化を知ったのは何故か倒れてきている工業用のクレーンが頭に触れるか触れないかの瀬戸際のときだった。
※ ※ ※
「あれ?」
唐突に、視界が変わった。さっきまで繁華街を歩いていたはずなのに、何故か見たこともない場所が俺の目には映っている。
視界には何もない。ただ永遠とオレンジ色の世界が広がっている。まるで夕焼け時に雲の中にいるような、そんな世界。
「なんだ、ここ……」
現世とは思えないような光景に、俺はただ戸惑うだけ。
「もしかして、異次元……とか? ワームホールか何かに吸い込まれた?」
……。
そんな想像しかでてこない自分が若干悲しくなった。
「ま、まぁとりあえず場所が分からないと動きようがないよな」
そう思い立ち、体を動かそうと思って気づいた。
「あれ?」
足の感覚がない。
おかしいと思い視線を下へと向けるが、足らしきものは全く見当たらない。
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