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しかし、部屋に入ってきた人物を見て、つい声が漏れてしまった。
「あ――」
それは制服姿の朱美だった。
驚きで名前を呼びそうになり慌てて空気ごと言葉を飲む。
朱美は何の反応もせずに勉強机の方を向いた。どうやら聞こえはしなかったらしい。
(そっか、ここ朱美の部屋だったんだ)
考えてみれば簡単なことだ。今の自分の体は朱美のプレゼントとして買ったぬいぐるみ。ということは朱美が持っていて当然だ。
朱美は勉強机の上に置かれた鏡の前で髪を結んでいる。その髪型はいつものロングの両端をツインテールにしたような特徴的なものだ。
顔を色々な方へ向け、結び目の確認をする朱美。
「うん! 大丈夫そう!」
上手くいっていたようで、鏡に笑顔が映る。
その姿を見て、朱美も年相応の女の子なんだなぁと実感した。
「いこっか! ペン太!」
そう言って、朱美は俺のいる方を見る。今日も学校にぬいぐるみを連れていくのだろう。
(結局はまだ子供――)
と、内心で年相応なんて思ったことに呆れた瞬間――――
(お?)
俺の手が引っ張られた。そして――――
ムギュ。
(おおおおおおおおおぉぉぉぉ!?)
俺はいつものライオンのぬいぐるみの特等席……つまり、朱美の胸元に抱きかかえられた。
(あ、アタ、アタマに、頭に柔らかい感触がぁぁぁ!)
後頭部に伝わってくる胸の感触。それは歩く度にたゆんたゆんと揺れ、否応なくその大きさを主張してくる。
それだけで、俺は朱美が年相応の女の子であることをやはり実感するのだった。
(や、やっとついた……)
学校に到着し、朱美は自分の席についた。
それと同時に、俺も天国と地獄のダブルアタックから解放される。
(はぁ~……)
常時胸が当たっているというのは、他人から見れば天国かもしれないが、俺にそれを喜ぶ素直さはない。
「あ、おはよー朱美」
すると、ショートカットの少女が朱美に話しかけてきた。
「おはよー! 亜紀ちゃん!」
亜紀と呼ばれたその少女は、クラスメイトの山本 亜紀だった。
あまり話したことはないけど、根っからのスポーツ少女で明るい子だった覚えがある。
「お? ぬいぐるみ変えたんだ?」
そういってやたらと顔を近づけて俺のことを見てくる山本。
「うん。ヒロくんがプレゼントしてくれたんだ」
「え、ヒロくんって……あの……?」
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