バレンタインデー

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彼女がその『義理』を配り終えたのは、律儀に教師を待っていたために、完全下校時間前の中途半端なころだった。 「余っちゃった…」 手元に唯1つ残ったマフィンを見つめ、彼女は小さく溜息を吐いた。 今年は、あるまじき計算ミスをしたらしい。 「…とはいえ、家には試作品があるのよね」 今の彼女にとって、喩え見返りが無くても、誰かにあげてしまうのが得策だった。 ……とはいっても、この時間は人が少ない。部活か学校外かに大方の生徒は分類できる。 しらみ潰しに各教室を回ることにした。 「────いた!」 その人は、窓際の席に座っていた。 彼女は、人を見つけた嬉しさのあまり、 「ちょっといい!?」 やたらと語気に力が入って、 「……いいよ」 さしずめ便宜上の微笑みを向けられて、にっこりと笑い返した。
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