バレンタインデー

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自分のではない教室に足を踏み入れて、 「えっと……ですね………」 勢いで言ったものの、 “彼が全く知らない人である” という事実に、今更ながら焦っていた。 その口ごもりようは、まるで “告白する勇気を持てずにいる乙女” のようだった。 彼は、それを聞こうという眼差しだった。 「えっと……リアルに余っちゃったので、貰ってください!」 そして、彼女はようやくそれを彼の前に差し出した。 ある種の気合いと熱意の隠った『義理マフィン』に他ならない。 「俺に? ありがとう」 すんなり受け取った彼に、彼女は満足げに笑う。 「助かった! 荷物になったら困ったし」 対して、キョトンとしたのは彼だ。 「……? ホントに“余り”?」 「うん。余り物には福があるって!」 いまいち彼の求めた答になっていない。 「まぁ、出来栄えは文句なしだと思うよ」 最後に、自画自賛っぽい発言をして、 「じゃあ、サヨナラ」 あまりにアッサリとした身の退き方だった。
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