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ナイフの先端で手の甲に触れた。
自傷行為なんかじゃない。この行為はもはや、呼吸をするかのように自然な事だと思えるほどに繰り返してきた。昔は感じていた恐怖も、今はさっぱりなくなっている。
だけど、あの頃の恐怖とはまた違う恐怖が耳元で囁いていた。
それはきっと、自分の可能性への恐怖なのだろう。
自分でいいのだろうか。失敗しないか。失敗してしまったら、次はないのだ。いやそれよりも、人体への影響は問題ないのか。
―――嗚呼、一生やりたくないし、今すぐにでもやってしまって終わらせたい。
くだらない矛盾だな、と考えた瞬間、ふと自分を客観的に見る、いう便利な生き方を思い出した。
そうだ、わたしはこの程度の事で何を怯えているんだ。こんなにも無関心で無機質な心のわたしが。
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