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「それで良い」
パラウの覚悟は揺るがず真面目な顔でそう答えた。その答えを待っていたかのようにナウスはあからさまにニヤリと口端を吊り上げる。それを見たシュリはひどく嫌な予感がした。
「決まりだな。どこの国の王が先にあの世に行くか見物だなぁ、パラウ。君の死顔を篤と拝見しようじゃないか」
ナウスは片手を上げパチンと指を鳴らした。
皆は彼が何をしているのか疑問に思っていると、柱から二つの影がパラウに向かって飛び掛かってきた。
パラウは咄嗟に腰に掛けている剣に手を延ばして柄を握るが、それを抜くよりも早くパラウの側近二人が前に出た。
敵の鎌のような武器の刃とラインが持った二本のナイフの刃がぶつかり合いキンッという音が鳴り響いた。
もう一人の敵はナイフを構えたシュリの目の前で立ち止まり、様子を伺っている。敵の手には太い針のような物が握られていた。
「フッ、どうやら不意打ちは失敗に終わったようだ。二人とも、戻って来ても良いぞ」
ナウスはさも残念そうに溜め息を吐きながら言うと、二人の敵はすんなりと武器を引いて三人の下から離れる。
「不意打ちなど卑怯だぞ!」
「戦に卑怯など無い。全てはどう相手を出し抜くか…だ」
気付けば、ナウスの背後で弓を構えている兵が数名立っており、矢の先端はパラウ達の方向に向いていた。
「お前達、パラサイス国の王が今からお帰りだ。丁重にお見送りしてやれ」
「げっ!シュリ、ライン。ここは急いで身を引くぞ!」
パラウは顔を引き吊らせながら二人に叫ぶと身を翻し走りだした。二人も言われるまでもなくパラウを追って走りだす。
「射て!」
ナウスの言葉に兵は一斉に矢を放った。
矢は空気を裂くようにヒュンヒュンと音をたててパラウの元に飛んで行く。
もうすぐ出口というところで矢が跳んで来たのに気が付き、パラウは後退りながら腰に差していた剣を抜いて跳んできた矢を斬っていく。側近の二人もナイフを抜いてパラウの盾となり必死になって矢を落としていった。
そして間もなく出口に到着して急いで壁に隠れる三人。掠り傷はあるが、三人ともひどい傷はなく難を逃れた。
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