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「危ない危ない…」
ディアル王の側近であるリュアは、弓兵がパラウを狙って弓を射っている隙に被害被るのは御免だと、こっそり逃げ出して来た。
「おい、アズハ!」
リュアは身の丈程ある木の影に隠れている人物に向かって叫ぶ。
すると、その人物はビクッと体を跳ねさせて恐る恐る影から顔を出して来た。
彼もディアル王の側近で、本当は二人で会議に出席する筈だったが、王が勢揃いすると言われ恐くなったアズハはリュアが帰って来るまでずっとこの場に隠れていたのだ。
「リュア、会議は終わったのか?」
「終わった。終わった直後にあの場が戦場と化したよ。だから逃げる!」
リュアはアズハの問い掛けに平然と答えた後、慌てたようにアズハの肩を掴んでクルリと方向転換させるとそのままアズハの背中を押して走り出した。
「止め!」
パラウの姿が見えなくなるとナウスが叫んだ。兵はピタリと攻撃の手を止め、辺りはシーンと静まり返る。
「逃げられたか。まぁ、まだチャンスはあるというものだ」
クククッと含み笑いを零し皆に帰るぞとぼやくと、身を翻してスタスタと歩き出した。
「しかしあのシュリという少年、どこかで見た事があるな…」
「どうなさいました?」
歩きながらふと、呟いたナウスにナウスの側近の一人であるレフトが問い掛けた。
その問い掛けにレフトを一瞥したナウスは微笑を浮かべて首を振る。
「いや、何でもない」
それだけ言ったナウスはそのまま黙ったまま側近の前を歩いていると、レフトは悲しそうな表情を浮かべて口に手を当てる。
「ナウス様…私をさて置き、まだ、シュリとかいう少年を気にかけておられるのですね?」
レフトはそうわざとらしく言うと啜り泣くような仕草も演じてみる。
「そんなことはない、愛しているのはお前達だけだ」
などと、冗談を冗談で返すナウスに、もう一人の側近のガヤンが冷めた目でそのやり取りを眺めていた。
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