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今から十年前、世は戦火の真っ只中だった。
町は焼け焦げ、野は荒れ果て、民間人を巻き込む大きな戦になっていった。
「もう、歩けないよ…」
「あと少しだから」
少年は今にも泣きだしそうな女の子の手を引きつつ優しげに言う。
彼ら兄妹は戦により両親と家を失い安全な場所を求めて歩き続けていた。私物は少年が肩に掛けている弓ぐらいで、何も持ってはいない。
行く道行く道には人の亡骸が転がっており、それを見るたびに女の子は脅えて少年にしがみ付く。
「アシュ。着いたよ」
少年はアシュという名の女の子に微笑みかけると、ドーム状の大きな建物を指差した。
「あれは?」
「ここが安全な場所だよ」
少年は妹の手を引いて建物へとゆっくり近付いて行く。
「お前も自分の国を捨てて来たのか?」
少年と同い年くらいの男が壁に持たれ掛かったまま問いかけてくる。綺麗な顔立ちをしているが、生意気な口調が耳に残った。
「そうだな…そうなる」
少年は悲しそうな表情を浮かべ、アシュの顔を見下ろしながら小さく呟く。
「名前は?」
男が問い掛けてきたので少年は男の顔を見て答えた。
「僕はディアル。この子が妹のアシュだよ」
「よろしくね」
アシュは男に向かって明るく挨拶をする。
男は女の子の純粋な笑顔を見て自然と笑みを浮かべた。
「私はナウスだ」
二人の元に歩み寄って来た男は、アシュの頭を撫でながら自分の名前を名乗る。
フと見れば、護身用なのか彼の手には背の丈以上もある槍が握られていた。
「くそっ、しつこいんだよ!」
どこからともなく苛立ちを隠せぬ叫び声が聞こえてきたため、三人は声のした方へ視線を向けると、向こう側から剣を持った男がこっちに向かって走って来るのが見えた。
「助けてくれ!」
男は走りながらこちらにいる三人に駄目元と思いつつも叫んできた。
男の後ろからは三人の兵が追い掛けて来ている。
「ちっ」
男はこちらが反応を見せない事に小さく舌打ちをすると、立ち止まって剣を構え一人の兵士の持っている剣を払い退け、次の瞬間に腹部を斬り付けた。
それを見計らってナウスが走りだし、槍を構えて振り回すともう一人の兵の腕を斬って飛ばした。
「僕も…」
ディアルは肩に背負った弓を構えると、シュンっと風を切る音と共に最後に残った兵の心臓を矢で射ぬく。
三人の兵達は、もう男を追い掛ける程の力を失っていた。
「こんな風で良いのかな?」
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