蛙の言うこと

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わたしは今日、ちょいと危ないめに遭いましてね。 お日様がお休みになる準備をほとんど整えておいでで、空気の青暗くなったころでした。 仲間はもうゲコゲコと愉しげに歌っておりました。 そこでわたしも、やぁこれは出遅れたかもしれぬ、早々に行って舞台へ加わろうというんで、ピョコンと跳んで行ったんですよ。 そこへ犬が通りかかりましてね。 犬ってやつは夜目がきくうえに、動くものを見たら、追い掛けずにはいられない性分でさあ。 その犬は、わたしのいた田んぼの少うし高い場所からわたしを見つけて、すっかりもう捕える気になっておりましたよ。 耳と尾をピンと立てた、真っ黒い犬でした。 わたしは犬の大きなからだにやられた仲間のことを存じておりましたのでね、それはもうヒヤリとして、こいつはよくないぞ、と思いました。 身も凍る思いと言いますが、まさにそれでさあ。 けれども、わたしがすくんでしまって、ああもう駄目だ動かれない、と覚悟を決めるか決めないかという時に、声がしたんです。 「ワンコロや、何かいるの?」 と、その声は言いました。 若い女のひとの声でしたね。 その女のひとは、ワンコロの目の向いている方を、まあわたしの方ということですがね、とにかく田んぼを覗きこみまして、 「蛙がいるねぇ」 と言って、ワンコロをしばっている紐を、ぐいと短く握りました。 それでわたしは、さあ今のうちだ、さっさと逃げてしまおうと、またピョコンピョコンと一生懸命ビニールの上を跳ねました。 稲の坊やの、まだ苗にもならないのが揃って入っている、あのビニールの上ですよ。 そうして犬は、女のひとに連れられて行きまして、わたしは命拾いをしたというわけです。 一番星がお空にピカリと輝きまして、お月様がもうじきおいでになる時刻のことでした。 皆と歌うのはそりゃあ愉しいですがね、命をなくしちゃおしまいでさ。 皆さんも、犬には充分注意して舞台にあがらないといけません。 ええ、そうしないといけませんとも。
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