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「春ですねえ」
と、クローバが言いました。
「ええ、もうすっかり春ですわね」
と、タンポポが言いました。
「今朝はいいお天気ですね」
と、クローバが言いました。
「お日様の光が気持ちいいですわね」
と、タンポポが言いました。
「じきに子供たちが、私の花で冠やら首飾りを作るようになりそうです」
クローバが言いました。
「まぁ、それは楽しみですわね。けれども私、それを見られるかしら。私のこの黄色の花は、白い綿毛になって飛んで行ってしまうのですよ」
タンポポが寂しげに言いました。
「毎年のことですからね」
と、クローバは慰めました。
「けれどもあなたの綿毛をふうっと吹いて、子供たちは遊ぶでしょう」
クローバがまた言いました。
「ええ、そうです。そうでしたわ。それに、子供たちは私の茎にそこいらの細い棒なんかを差して、小川で水車のようにして遊ぶんですのよ」
タンポポは、元気を取り戻して言いました。
「本当に小さい子供なんかは、私の茎からにじむ白いのを、ミルクみたいに思って舐めてしまいますの」
タンポポは、クスクスと笑いました。
みなさんご存知でしょうが、タンポポの白い汁は、舐めてみると苦くて、びっくりしてしまいますよね。
「それも毎年のことですね」
と、クローバが微笑みました。
「あなた方の中から、四葉のひとを見つけようと、随分熱心になる子供もいるでしょう」
タンポポが、クローバの群れを見渡して言いました。
「四葉の者は大変な恥ずかしがりですから、なかなか顔を見せません。四葉を見つけるというのは、難儀なことですよ」
と、クローバは苦笑しました。
「あら、犬を連れたひとがこちらへ来ますわ」
タンポポが顔を上げました。
「おや、本当ですねえ、女のひとですねえ」
クローバも顔を上げてそう言った頃には、女のひとは、クローバとタンポポのすぐ側のところへ来て、しゃがみこんでいました。
女のひとは、クローバとタンポポに少し触れて、また犬を連れてどこかへ行きました。
「今のひとは、何だか微笑んでいませんでしたか?」
クローバが尋ねました。
「ええ、ええ、確かに微笑んでいましたわ。きっとあのひとも、春のお日様が気持ちいいのですわね」
タンポポが答えました。
春のやわらかな日差しの、気持ちのいいお天気の日のことでした。
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