斜陽

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 「なんですか?」  総長と言われたこの男に対して俺は怖いとは思わなかった。総長と言われているのだから権力的に偉いと思う。失礼な態度を取ればトリマキも含め俺に危害を加えるだろう。だが普通にしていればなんら問題はないはず。だから怖くはなかった。なによりこの男が俺に何らかの用事があるとは思わなかったからでもあるのだが。  「おい小僧。お前、高嶺悠蒔(たかみねゆうじ)っていう名前なのか?なぁオイ」  「誰ですかそれ?俺はミレスって名前なんですけど」  「本当か?じゃあカルテで確認するからちょっと待ってろ。」  そう言うとトリマキの1人に取りに行かせる。しかし高嶺悠蒔って誰だよ。俺はミレスだろ。いやそのはずだ。  そうして待つこと10数分、トリマキの1人が戻ってきた。その間、剣からの声が聞こえることはなかった。  「お待たせしましたグラシア総長。此方になります。」  「おう、悪いな。…………ふむ。やはりな。」  ニヤリと笑うとカルテから目を離して俺を真っ直ぐに見据えてきた。  「やはり高嶺悠蒔か。些か記憶障害があるかもしれんが問題ない。一緒にきて貰うぞ。ちなみに逃げても構わんがその時は容赦はしないぞ。」 グラシアが押さえていた感情を解放したかのような圧力が大気を震わせる。今の自分ではすぐさま殺されることは目にみえている。  俺はわかったとしか言いようもなく、グラシアの後をついていった。  後ろをついていきながら、冷静でない頭で精一杯考えてみる。記憶障害と言っていたが異変があるのはむしろ身体の方だと思う。まぁ今殺さないのは、利用価値があると思ってのことなんだろう。あとは何か聞かれても困ることはない。別に人に話せないようなやましいことはしていないし。
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