斜陽

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 それほど寒くはないがやや冷え込んできた。ここで停滞していても何も始まらない。さっさと入ってしまうことにしよう。  玄関をくぐって内装を見てみると、どこにでもあるような寮や宿舎に見える。軍の管理物であるためもっと豪華なものだと思っていたが違うみたいだ。むしろ今の心境としては馴染みがあるこういったものの方が落ち着いていられる。  玄関をあがってすぐのところにある階段から2階に上がる。外から見たところによると窓から洩れる灯りはそれほどなかったため、大半はいないか寝ているものと考えられる。  階段を上がりきってすぐの部屋に200と書いてある。そこから奥に3部屋分進んだところに203と書かれた部屋があった。さっきの人からもらった鍵を鍵穴に差し込み時計回りに軽く捻る。カチャリという金属音がして鍵を引き抜き、ドア開ける。しかし開くことはできない。ということは今のでカギがかかってしまったみたいだ。誰も住んでいなかったのだから防犯のためにカギをかけておくべきではないかと思いながらも今と同じ動作を再び行う。  「おかえりなさいませ高嶺悠蒔中尉。」  こんどこそ部屋に入ると一人の女性が此方に近づいてきていた。さっき入れなかったため鍵を開けにきたんだろう。  「すみません。部屋間違えました。」  慌てて部屋から出る。女性の部屋に入ってしまうなんて不覚だ。しかもノックもなしに。  「あの…、中尉は部屋を間違えてませんのでお入り下さい。」  ガチャという音とともに先ほどの女性の声が聞こえてきた。確かにもう一度確認してみるが部屋番号は203と記されている。  「ここ俺の部屋ですよね?なんで貴女がいるんですか?」  「一先ず入って下さい中尉。そのあたりのことも説明させていただきますから。」  どこか釈然としないが女性に言われたとおり入ることにする。
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