斜陽

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 壮大な曲だった。明るめの曲調ではあったが、歌詞自体は悲しさと切なさを織り混ぜたように聞こえてきた。どうにも前の曲とは違って言葉では上手く表せそうにもない。  「中尉どうでしたか?」  マイクを置いて沙月さんが聞いてくる。すかさず「上手かったです」と言おうとしたところで、  「沙月。ちょっと…」  もう1人いた女の人が沙月さんを部屋の外に呼び出すように顎でそちらへ示した。  「すみませんが中尉少し席を外しますね。」  「わかりました。あとあまり俺のことばかり気にしなくてもいいですから。」  そう言うと沙月さんはキョトンとした顔をしたが直ぐに微笑み、「わかりました」と言って出ていった。沙月さんは俺が孤立しないように気にしてくれているが、それじゃあ沙月さんが疲れると思う。だからあまり気にしないで楽しんでもらいたい。  「おい高嶺悠蒔。」 そんな風に考えていると残っていた2人の男から声をかけられた。 ―――――――  「沙月、どうして?」  「どうしてとは何が?」  「何で沙月が隊長を辞めなきゃいけないのかってこと。しかも後任はよりにもよってアイツに。」  私は舞に、待合室にもなっている玄関の一角に連れてこられた。舞は話ながらも頻りに瞬きをしている。これは舞が、何かに真剣な時によく出る癖だ。つまりは舞は今回の人事に真剣に怒っているということだ。  「(とは言ってもあの事件を知っている人なら大抵はこうなりますよね。)」  「理由は簡単よ。私はあの人に死んでもらいたくない。何より中尉を隊長にすることは上官がお決めになられたこと。軍人は上官の命令には絶対ですから。」  「沙月。今アイツに死んでほしくないって言ったよね?それってアイツが“高嶺”だからなの?」  「そうね。あの人は“高嶺”だから死んでほしくない。」  「いつまで御家の事情に拘ってるの?もうその取り決めは無効になったっていうのに。」
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