旅路へ

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ヒヤリとする風… イヤな風だ。 レイオはふらふらと朝焼けの街を歩いていた。 今朝起きる前までの記憶は無い。 ただ生きている感覚だけを頼りに、レイオは見慣れない不可思議な形状の建物を後にした。 建物を出る際に表に掲げられていた『MS/art・gallery』の文字からそこは画廊で、居住スペースに置かれていた身の回りの物から多分M・Sというイニシャルの男性が住んでいるという事。 慌てたとっさの行動とはいえ、自分がそこから荷物を持って出て来た状況から、その男性…まず間違い無く画家と暮らしていた事だけは理解できた。 そしてこの国のこと、ここがどこなのか、生活に支障の無い程度のことは分かる。 また自分の名前が「レイオ」である事、手にした荷物の中身から職業は多分画家であるという事だけが、知り得る事実の全てだった。 行かなくちゃ… どこに? そうだ。私はこの地に芸術の糧になるものが何一つ見当たらないことを知っている。
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