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夜の闇を縫う影。
誰もが寝静まり、墓標のように静観と立ち並ぶ家屋を足場に、二つの影は月夜を跳ね回る。
煉瓦造りの家屋に混ざって建つ鉄板を繋ぎ合わせただけの廃材の塊のような家屋を足場にすると、靴と鉄が派手な音を立てるが、そんな些細な音など、この“見捨てられた庭”の住人においては時計の秒針や衣擦れの音ほど気にもならないのだ。
誰かが殴られ、蹴られ、殺されるなど、日常茶飯事。
自分より弱いと思えば、その者から全てを搾取することなど、ここで生き残るための最低限のスキル。
それがまた行われているだけ。
誰も闇夜を跳ね回る二つの影に気にも止めない。
そんな暇があればゴミを漁り、満たされぬ空腹を和らげる時間に費やす。
それも必要最低限。
「あっはっはっ!!もっと速く逃げろ逃げろー!!」
少女の狂喜に満ちた笑い声が前方を走る者へ放たれる。
それに当てられたかのように前方を走る細い体躯をした優男が身を震わせ、ついに傾いた屋根で足を滑らせた。
体勢を立て直す間もなく、男はその身をゴミの溜まり場へ落ちる。すぐに逃げようとするも、生ゴミや木材では足場が安定せず、罠にかかった虫のように見苦しくもがくだけになった。
「はーい、終了かしらねー」
少女は邪悪に微笑み、一瞬の躊躇もなく、その手に握られている黒い銃の引き金を引く。
助けや許し、慈悲が意味を失ったこの庭で、今宵も生き抜くための血が流れる。
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