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「焼けば食えないこともないが…あまり推奨はしてやれない」
「んん?」
サラがカニバリズム(人食主義)を受け入れようとする野獣的な自分と、カオスの中にいながらもまだ僅かに残る道徳的な自分との脳内戦争を見届けている最中、突如背後に音も無く男がそこに現れていた。
その男について五感で探るサラ。
まずは聴覚。
鉄の扉の向こう側から声を発しているようなやけに頭に響く重苦しい声。
次に視覚。
振り返ってみても見えるのは黒一色のみ。あまりの身長差に黒のロングコートしか目に入らない。目線にあるのはたぶん腹部だ。
見上げれば黒い眼帯をした白髪の厳つい男の顔。
嗅覚。
鉄…いや、血の匂いだ。この腐った庭と同じ匂いがするから、時折区別がつかなくなる。
触覚。
…ふむ、硬い。彼の頭の硬さが体にも表れているかのようにその体つきはとても硬い。岩と間違えそうだ。
味覚。
………不味いな。焼けば食えるかな?
「何をしている…」
「いや、味覚で相手を判断できるかな~、と」
「下らない事をしていないで話を聞け。時間が無い」
“クライス”はサラの奇行に一切付き合おうとはせず、あくまで自分の意思のみで話を始める。
昔からそういう男だった。
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