11人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
.
“俺”の名前はシオン。
シオン・アスナー・ヴァゼアラート。
しかしこれは捨てた名前。
今は住んでいる世界の、暮らしている国に併せた名前……【日乃森シオン】で通っている。
嘗て俺が生まれ育った故郷である世界、ヴァゼアラートで付けられた本当の名前は世界を出る際に捨てた。
哀しみと口惜しさと、ほんの少しの悦びと共に……
さて名前からも判る通り、俺はこの世界全体を統べる王族の、それも嫡子として誕生していた。
所謂、第一位王位継承者というヤツだ。
しかし、当時の俺……否、“僕”にそんな資格が本当に有ったかは疑わしいが。
其処は取り敢えず置いておこう。
この世界【ヴァゼアラート】は精霊達に祝福されていて、住民達も精霊との感応能力の高い者が多い。
そしてそれは強大な“力”と成り得る。
後はまあ、簡単に想像はつくだろうけど、そんな強大なまでの“力”は他者への屈伏を強いて、支配に変える事が可能だ。
このヴァゼアラートが未だ混沌として、纏まりが無かった時代では正に群雄割拠を地で征ったと云う。
掛かる歳月が千の単位で数えられる刻を戦い続けて、幾つかのグループ(国)が出来ては消えていった。
そして、最終的に世界を制したのは我が祖先……
炎の一族の一つ、ヴァゼアラート家だった訳だ。
ヴァゼアラート家の当代、フレイ・エトナ・ヴァゼアラートが最初に行ったのが世界の名前の制定。
当時は戦争にかまけ、そんな事にも目がいかなっかったらしく、世界に名前が無かったのだ。
【精霊戦争】の終結から数えて一年。
初めて世界に名前が付けられた瞬間だった。
.
最初のコメントを投稿しよう!