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空に見えるは朧月
幾度も風に倒されても元の姿と科す野花
ふと狩衣の擦れる音が暗い夜空に一つした―
縁側に腰掛けていたのはまだ15の少女だった。
透き通る程の白が混じった薄青を背中辺りで束ねている。
衣は山吹の地に淡くつらつらとした波模様が描かれている。
容姿はこれとなく色めいたとこはないが、可愛らしい容貌だった。
時は殆ど者が寝静まっている子刻―
少女は未だ床に入る様子もなく、ただ靄を纏った月を眺めている。
「姫…?」
いつの間に入ってきたのだろうか。足音も聞こえぬ程に放心していたのか、その声は確かに姫と呼ばれた少女のお付きの者だった。
髪を肩にかからない程度の不揃いな黒髪のその名は
楽惟<ガクイ>。藍の衣を身に纏い、腰には蔦の模様が施された短刀を携えてる。凛として一瞬冷たい印象を覚える彼だがとても穏やかで心優しい従者である。
「姫、夜風に当たってはお風邪を召されます。どうか中へお入り下さい」
心配そうに眉を下げると、姫と呼ばれた佳月はそっとそちらを向く。
「そんなことないわ。まだ秋半ばなのだから、寒くもないし…それより貴方も一緒にどう?」
不安そうな顔をしてる楽惟にくすくすと衣の袂を口許に当てながら笑うと、隣を開けるように軽く柱に寄った。
「えっ…いや、私は…」
佳月に促され、少し戸惑い身を引く。
楽惟はそんなこと恐れ多くて出来ないと困惑した顔を見れば一目瞭然だ。
「だめなの?お願い、少しだけでいいのよ。」
寂しそうに目を細めると願うようにじっと見つめる。それに見つめられ、これ以上は断る意味はないと思った楽惟は、佳月の隣に腰を降ろした。
まだ、真夜中に入ったばかり。
皆寝静まって、居るのは二人だけ。
佳月は隣で空を眺めている楽惟をちらりと見ると幸せそうな顔をしてまた空を見上げた。
この夜が永久に明けなければ……
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