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揖保寺の冬は厳しい。今朝も本堂から和尚、運陳のやたらとセクシィでハスキーボイスなお経が聞こえてくる。
近所の評判はすこぶる悪く、自治会を通して朝のお勤めをやめるよう再三注意されている。
そして今日もまた自治会長の高田が揖保寺を訪れた。
「和尚っ和尚っ」
和尚に確実に聞こえる声で呼び掛けるがハスキーボイスは鳴りやまない。
「ま、いつもの事だ」と高田はなんの躊躇なく境内へ進んだ。
本堂に近付くにつれ、和尚のハスキーボイスが大きく耳の鼓膜をつんざく。
高田は明かりひとつない暗闇の本堂の中へ土足のまま上がり込み、深いため息をついて本堂中央へと進んだ。
高田の目が次第に暗闇から慣れてくると、うっすら仏様の像が浮かび上がった。大きさを例えるならケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダースくらいだろうか、座禅して両手は合掌したオーソドックスな仏像である。
しかし一向にハスキーお経は鳴りやまない。
だが奇妙な事に和尚の気配がまるでないのだ。
高田はしゃがみ込み手探りでなにかを探し始めた。
ゴトッ
なにかに触れた。いや何かを倒した感触だった。高田は慣れた手つきで倒れた四角形の物体を起こし、手探りでその物体の上部についてある突起物を押した。
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