巡る季節

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遠い昔、遥か極東の地。 そこに、二人の人間がいた。二人共、同じ黒髪に黒い瞳を持っていた。 一人はすらりとした背に、肩程長い髪に少しつり上がった目。 もう片方は先程よりは短く、横髪を適当な長さで切りそろえていた。 二人は共に暮らし、決して楽ではなかったが、そこそこ幸せだった。 「兄さん、耀兄さん。見て下さい、蕾がこんなに」 耀が弟に呼ばれて表に出ると、彼は微笑みながら手招きをしている。 「兄さん、ほら、蕾がこんなに膨らみましたよ」 言われるままに木を見上げると、そこには微かに膨らんだ桜の蕾だった。恐らく、ここ最近暖かく穏やかな日々が続いていたからだろう。 「ああ、今年は少しはやいあるね。もう冬も終わりあるね……」 耀は暫くそこに立っていた。寒く厳しい冬を耐え抜いた桜の蕾は何処か誇らしかった。 「兄さん、はやく店を開けましょう。もうお客様がお見えですよ」 「ああ、そうあるね。菊、今行くある」 耀は再び弟に呼ばれ、家の中へ入っていった。
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