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二人が営んでいるのは、小さな茶屋だ。
二人が煎じる茶は種類こそ違うが、何処の茶屋よりも香り、色、風味の全てが良いと街で評判になった。この辺りでは一番の茶屋になり、わざわざ隣街から二人の茶を求めてやってくる程だ。
「菊~、そこのお客様に2番をお出しするある」
「はい、只今」
こんな会話はいつもの事だ。二人は賑やかな店の中を行ったり来たりしながら、客と楽しく話をした。
ガラガラ……
「いらっしゃ……いま、せ……」
菊は扉に振り向いて、そして言葉を詰まらせた。
彼等は店に入ると、扉に一番近い席に座った。その容姿を除けば、彼等は只の客人の筈だった。
彼等はこの辺りでは見ない服を纏っていた。髪や目の色も、菊や耀のそれとは違い、まるで西洋の人形のように美しかった。
「おい」
その中の一人が菊を呼んだ。菊ははっと我に返った。
「な、何でしょうか……?」
「此処ではどんな茶を出している?」
「どんな、と申されましても……」
菊は戸惑った。
この茶屋は客人それぞれの好みに合わせて調合し、煎じている。それは病を治したり、傷を癒やす効果もあり、人々は大変好んでいた。
だが、彼等は明らかにこちらの人間ではなかった。だから、どんな調合で煎れれば良いか全く分からなかった。
「まあ、いい。一番香りの良いやつを頼む」
そんな思考を遮るように、先程の男は言った。他の者達も微かに頷くところを見ると、その男が彼等の頭と見て良いだろう。
菊は少し恐怖に似た感覚を覚えながらも、小さくかしこまりました、と呟き奥へ消えた。
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