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「静かでええ所やね~。それに美味いモンもいっぱいあるし、ほんまええ所や~」
深い緑の瞳を、子供の様に輝かせながら茶髪の男は言った。
「お兄さんも同感。それに美人も多いし、もう最高」
金のブロンドを揺らしながら、蒼眼の彼も共感の言葉を並べる。
「フランシスも同じ事考えとったんか。なんか嬉しいわ~。それにしてもほんまに黒髪の娘ってかわええわ。ま、でも俺のロヴィーの方がかわええけど♪」
「アントーニョ……お前って奴は本当にあの子の事好きだな」
「当たり前やん!!大切な子分なんやから!!」
アントーニョは誇らし気に胸を張ってみせた。フランシスはいつもの事の様に受け流していた。
それを冷酷な目で眺めているのは、先程菊に声を掛けた男だった。
足を組み、頬杖をつきながら椅子に深々と座っている。彼は先程からにこやかに話す二人に、苛立ちを覚えていた。
「なあなあ、『お迎え』にはいつ行くん?」
アントーニョが不意に問い掛けた。
彼は眉一つ動かさず答えた。
「三日後の日暮れ。それが無理ならまた考える」
「三日後かぁ……。いつもよりはやいやん」
「俺に意見するって言うのか?良い度胸だな」
彼は腰に下げたホルスターに収まっている愛用の銃に触れながら、不適に口を緩ませた。
アントーニョは苦笑しながら両手を挙げた。
「そんな滅相な。お前の言う事は絶対やって。なあ、フランシス」
「ああ、なんつったって我等がアーサー・カークランド卿なんだからな」
二人は顔を見合わせながら、そう彼に言った。
アーサーと呼ばれた男は、無言でテーブルに置かれた蝋燭の火を、先程とはうって変わって穏やかな目で眺めていた。
彼等が何をする為にこの亜細亜に来たのか。
菊も耀も、まだ何も知らなかった。
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