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菊は、恐る恐る手の中を覗いた。その手の中に収まっていたのは、指輪だった。
菊は暫く銀色に光るそれを見ていた。
陽の光に翳すと、その輝きは更に増した。
とても綺麗だと、菊は思った。どこもかしこも銀色で、細く弧を描くそれをいつまでも見ていたいと思って、
思って、そこに目が留まった。
指輪の内側に、文字が彫られていた。
ある程度西洋の言葉を学んでいた菊にとって、その文字を解読する事は難しくなかった。
-Arthur
もしかして、これは人の名前……?だとしたら、先程の方の?
思考を巡らせた結果は、余りにも不明確だった。けれど、今の彼にそれを否定する根拠は何処にも無かった。
「あの方は、アーサーさんと言うのですね」
菊は小さく呟くと、指輪を自分の指に填めてみた。指輪が大きいのか、彼の指が細いのか、指輪はぴったりとは填まらなかった。
(これでは折角戴いたのに、無くしてしまう……)
菊は自分の机の引出から紐を取り出し、指輪を通した。両端を固く結び、首に掛ける。
「こうすれば、無くす事もありませんね」
どういう訳か、菊はこの時-実際はほんの数秒間だが、一瞬何とも言えない幸福感に包まれた。
それ以来、菊は首に指輪を下げ続けた。
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