ソラ

10/15
前へ
/55ページ
次へ
仁史は、 「どうかした?」 と、自分のカップに口をつけて尋ねた。 それからはっと気づいて、 「砂糖とミルクがなかったね」 と、慌てて席を立った。 仁史はコーヒーには砂糖もミルクも入れない性質なので、忘れていた。何しろ誰かと一緒にコーヒーを飲むことなど、久しぶりだったのである。 席を立ってキッチンへ向かおうとした仁史をソラは、 「違うの!」 と、自身も椅子から腰を浮かして止めた。 仁史はキョトンとしてソラの顔を見た。 「…コーヒーはね、飲めないの」 と、申し訳なさそうにソラが言った。 なんだ、と仁史は呟いて、 「じゃあ紅茶にしよう。入れなおすよ」 と、ソラのカップに手を伸ばした。 「紅茶も…ダメ、なの…」 ソラは、本当に申し訳ない様子で目を伏せた。 カフェインがダメなのだろうと仁史は考え、 「ココアやミルクならどう?」 と尋ねた。 ソラはやはり、飲めないと言った。 では一体何なら良いというのか。仁史は少し困った。 「あのね、私…水しか飲めないの…」 ソラが右手で耳のあたりの髪をかきあげながら、言った。 その顔を、仁史は知っていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

344人が本棚に入れています
本棚に追加