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仁史は、
「どうかした?」
と、自分のカップに口をつけて尋ねた。
それからはっと気づいて、
「砂糖とミルクがなかったね」
と、慌てて席を立った。
仁史はコーヒーには砂糖もミルクも入れない性質なので、忘れていた。何しろ誰かと一緒にコーヒーを飲むことなど、久しぶりだったのである。
席を立ってキッチンへ向かおうとした仁史をソラは、
「違うの!」
と、自身も椅子から腰を浮かして止めた。
仁史はキョトンとしてソラの顔を見た。
「…コーヒーはね、飲めないの」
と、申し訳なさそうにソラが言った。
なんだ、と仁史は呟いて、
「じゃあ紅茶にしよう。入れなおすよ」
と、ソラのカップに手を伸ばした。
「紅茶も…ダメ、なの…」
ソラは、本当に申し訳ない様子で目を伏せた。
カフェインがダメなのだろうと仁史は考え、
「ココアやミルクならどう?」
と尋ねた。
ソラはやはり、飲めないと言った。
では一体何なら良いというのか。仁史は少し困った。
「あのね、私…水しか飲めないの…」
ソラが右手で耳のあたりの髪をかきあげながら、言った。
その顔を、仁史は知っていた。
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