ソラ

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ソラの顔は、例えば病気の子供が、友達に遊びに誘われた時に断る時の顔だ。したいけれどもできない、相手に申し訳ないと思いながら、仕方なく断る時の顔だ。自分自身の本心を隠した、哀しい笑顔。 仁史は、 「そう」 と優しく笑いかけて、ソラのカップを下げた。 そしてすぐに、新鮮な水をなみなみと入れて、またカップをソラの前に置いた。 ソラは、嬉しそうに微笑んだ。 仁史もそれを見て、目を細めた。 まるで快晴の空を見上げた時のような気分だった。 それにしても……仁史は考えた。 水しか飲めないというのは一体どういうことだろう。仁史の知る限りでは、そのような病気はなかったと思った。たとえそういう状態の患者がいたとして、このように元気に外を歩き回れるはずはない。 口から栄養を接種できないのであれば、点滴でもするしかない。それならば入院しなくてはなるまい。 そこまで身体が衰弱していれば、ソラのようにこうして自由に歩き回ることは難しいだろう。 せいぜい病院の中庭を少々散歩する程度で、あとはあの無機質な白い部屋の白いベッドへ居るよりほかはない……仁史はそこまで考えて、軽く頭を振った。 ――もう関係のないことだ。
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