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「ヒトシ?」
ソラが心配げに声をかけた。
仁史はソラの顔に目を向けて、なんでもないよ、と言うと、
「水のお味はいかが?」
と、少しおどけて尋ねた。
ソラは、
「おいしい!ありがとう」
と、またあの快晴の笑顔で答えた。
仁史の胸に空が広がった。
仁史は完全に蓋をし直した。心を曇らせた無機質の白に。
――関係ない。
仁史は何度も心で呟いて、それによって幾重にも胸の箱に蓋をした。
白い建物も白い服も、カルテも聴診器も、もう関係ない。
今は心に空が広がる、それだけでいい。
仁史は自由だった。少なくとも、彼にとっては自由だった。
「私ね、モデルをしているの」
と、ソラが話し始めた。
仁史は少し驚いた。モデルと言えば、ナントカいうブランドの服を着て、元の顔なんかわからないくらいに化粧をするものだと思っていた。
それは、ソラのイメージとはかけ離れていた。
「みんなが私の絵を描いたり写真を撮ったりするよ」
と、ソラは言った。
仁史の考えるモデルとは違うようだ。
芸術的な、創作モチーフとしてのモデルという意味なのかもしれないと思った。
それならば納得がいく。
ソラには、人を惹きつける不思議な魅力があった。
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