ソラ

12/15
前へ
/55ページ
次へ
「ヒトシ?」 ソラが心配げに声をかけた。 仁史はソラの顔に目を向けて、なんでもないよ、と言うと、 「水のお味はいかが?」 と、少しおどけて尋ねた。 ソラは、 「おいしい!ありがとう」 と、またあの快晴の笑顔で答えた。 仁史の胸に空が広がった。 仁史は完全に蓋をし直した。心を曇らせた無機質の白に。 ――関係ない。 仁史は何度も心で呟いて、それによって幾重にも胸の箱に蓋をした。 白い建物も白い服も、カルテも聴診器も、もう関係ない。 今は心に空が広がる、それだけでいい。 仁史は自由だった。少なくとも、彼にとっては自由だった。 「私ね、モデルをしているの」 と、ソラが話し始めた。 仁史は少し驚いた。モデルと言えば、ナントカいうブランドの服を着て、元の顔なんかわからないくらいに化粧をするものだと思っていた。 それは、ソラのイメージとはかけ離れていた。 「みんなが私の絵を描いたり写真を撮ったりするよ」 と、ソラは言った。 仁史の考えるモデルとは違うようだ。 芸術的な、創作モチーフとしてのモデルという意味なのかもしれないと思った。 それならば納得がいく。 ソラには、人を惹きつける不思議な魅力があった。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

344人が本棚に入れています
本棚に追加