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気づけば、夕暮れ時になっていた。
「もう暗くなるから、帰らないと危ないよ」
と、仁史はソラに言った。
そういえば昼食もとらずに過ごしていた。
「お昼、忘れちゃって。お腹空いたでしょ、ごめんね」
と、仁史は苦笑した。
仁史が食事を抜くことはしょっちゅうなので慣れているが、ソラは空腹を我慢していたに違いないと思った。
しかし意に反して、
「ううん、私食べ物もダメだから…お水だけだから」
という答えが返ってきた。
――変な子…。
仁史に気を使ったのかとも思ったが、多分そうではないと、思い直した。
本当にそうなのだと、ソラの顔が言っていた。
仁史は外へ続く階段まで行って、ソラを見送った。
階段を下りるソラの背中を見て、そういえば今朝会ったばかりの子だと思い出した。
仁史はソラの背中に声をかけた。
「ねぇ、どうして僕のところへ来たの?」
階段の中程――3段目くらいだが――で、ソラがにっこり笑って振り向いた。
「好きだから」
仁史はポカンとした。
「好きだからね、ツバつけとくの。誰にも取られないように」
ソラはちょろっと悪戯に舌を覗かせた。
そして、
「あなたも私のこと好きでしょう」
と笑った。
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