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仁史は否定することができなかった。
好きかどうかと聞かれれば、好きだ。
今朝会ったばかりの女の子じゃないか――仁史の理性が訴えかけた。
でも。
――もうずっと焦がれていたような気がする。
仁史自身にも誤魔化しようのない気持ちが、確かにあった。
言葉を失っている仁史に、ソラが言った。
「ね、約束を、してくれない?」
「約束?」
どんな約束だろうかと、仁史は聞き返した。
「そう、約束。私以外の人に…ついて行かないで」
ソラは、不安げに仁史の目を見つめた。
何だそんなことか、と仁史は思った。
「いいよ」
と、笑った。
この子供じみた約束とやらに縛られるのも、悪くない。
それにどの道、仁史を訪ねて来る人物などいないのだ。誰にもついて行きようがない。
「じゃあね、じゃあね、何処にも行かないでくれる?」
ソラは下りかけた階段をまた上ってきていた。
ソラのあまりに真剣な様子に、仁史は笑いを抑えきれなかった。
「だって外に出たら、誰かに連れて行かれちゃうかもしれないでしょ?」
明らかに年下の女の子から、子供のような扱いをされているのが仁史はおかしくて、クツクツと笑った。
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