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これ以上仁史を興奮させることは身体に障ると判断し、雅史は立ち上がった。
コートを羽織ると雅史は、
「今日はお前を見つけられて良かった。また来る」
と言い残して部屋を去った。
仁史は肩で息をしながら、睨みつけるような目差しをドアに向けていた。
ドアが完全に閉じ、人の気配がなくなると、仁史はベッドまで歩き、倒れ込んだ。
浅い呼吸をしていた。
――少し体力が落ちたか……。
そう思いながら仁史は、少しどころではないと、確信していた。
もうじきだ。近い。
身体のシグナルが、嫌でも仁史に教える。
しばらく仁史は浅い呼吸を繰り返していたが、ふいに咳込んだ。
咳は激しく続き、浅い呼吸さえままならない。
胃の内容物が上がって来そうだった。
涙を滲ませながらも、何とか呼吸をしようとすると、それを邪魔するかのように、こみあげてくるものがあった。
「――っ」
反射的に口を押さえた掌に吐き出されたものは、鮮血だった。
――肺か。
ハ、と乱れた呼吸をしながら、仁史は冷めた瞳でそれを見つめた。
肺からの出血は、血液に酸素が多く含まれるので、鮮やかな赤になる。
掌から溢れた雫が、ベッドに赤い染みを作った。
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