344人が本棚に入れています
本棚に追加
赤い闇に飲まれながら、仁史は愛しい名前を呼んだ。
――ソラ。
声にはならなかった。
けれども、それだけで闇が溶けてゆく気がした。まるで眩い光の差し込んだように。
仁史はもう一度彼女の名前を呼んだ。
――ソラ。
ソラの柔らかな微笑みが浮かんだ。
――約束。
仁史を飲み込もうとした赤い闇は、ほとんど薄れていた。
――守っただろう?約束。
最後の恋人。愛しい存在。
何年も、焦がれていた。数え切れない恋文を描いた。
――ソラ。
仁史の虚ろな瞳を、瞼が覆った。
そして仁史は、温かな夜空に抱かれるように、安らかに意識を手放した。
最初のコメントを投稿しよう!